The light of the firefly





「良守、ホタル見に行かないか?」

夜行にいる正守から家で寝ていた良守の元へ電話があった。
それは、ホタルを見に行くっと言う内容の電話。

「ホタル‥‥‥なんで??」

良守は寝惚けた声で受話器越しの正守に伝える。

「ホタルが綺麗な穴場を見つけたんだ。一緒に見に行こうよ、今夜迎えに行くからさ。じゃぁっ」
「え?おい!?」

正守は用件だけ伝えると一方的に電話を切り、良守の意見も聞かずにこれまた一方的に約束を結んだ。
良守は電話片手に、ただ電波の切れた受話器を握り締めて立ち竦むとしか出来なかった。


今夜の敵は対して強くもなく、時音と良守は簡単に校舎を見回ると家へと帰る準備を始めていた。

「あっ。時音は先に帰ってていいから」

時音は良守が今夜、正守と一緒にホタルを見に行くなど知らない。
良守はこんなに大きくなってまで兄弟でホタルを見に行くなど恥ずかしくて時音には言えないのだ。

「‥‥‥分かった。あんまり無茶するんじゃないよ?」

どうやら時音は良守が1人で修行でもすると思っているらしく、さっさと白尾を連れて帰っていった。
そんなにアッサリ帰らなくても‥‥‥っとも思ったが、今日は我慢しよう。

「じゃぁ。アタシも帰るかねぇ」

斑尾も時音が帰っていった後を追うようにスウッと帰っていった。
さっきから斑尾は良守の顔を見るなりニヤニヤしていたから、もしかしたらこれから正守と逢う事が分かっていたのかもしれない。

斑尾が校門を出て行った瞬間空から正守が降りてきた。

「さっ。良守今日はお兄ちゃんと一緒に真夜中デートだ」
「‥‥‥」

機嫌がいいのか悪いのか、正守はいつもの冷静なテンションではなくどこか浮かれたようなそんな感じだった。

「どこまで行くの?」

そう良守が聞いても

「んん〜?少し遠いからな。お兄ちゃんの背中に乗って寝てるか?」

っと、いつもならそんな事を言わない兄が今日はやたら機嫌がよく気味が悪い。
良守は「いい」っと短い返事をし正守が歩く数歩後ろをついて行くことにした。

その行動にくくっと正守は笑うと、後ろに居た良守の手を掴み手を繋ぎながら歩き出した。
手を掴まれた方は方印のある右手。
良守は慌てて正守から手を離そうとするが正守が良守の手を強く握っているため離れない。

「あ、兄貴!手離せっ!!」

兄貴はこの方印が有るせいで家を出た。
俺を憎んで、方印を憎んで、自分自身を憎んで‥‥‥―

正守に憎まれている自分と2人っきりで出かける事自体ありえない事なのに、手を繋ぐなんて考えられない。

「兄貴っ!!」

声を少し荒げて言うと、正守は平然とした態度で優しく笑いかけた。
その顔は小さい頃、良守に当然に向けられていた顔。
今ではもう向けられていない顔。

「今はこのままで‥‥」

正守はそう言うと前を向き、正守の後ろに居る良守の方からは顔が見えなくなった。

夏まじかと言っても今日は夜風が冷たい。
しかし、手から伝わってくる優しい温かさに良守は少し泣きそうになった。

「‥‥ゴメンな‥‥」

そう言われたところで良守は正守の背中に抱きついた。

絶対に嫌われていて、もう手なんか繋げないと思っていたのに繋げた喜び。
それが嘘でも、今だけの儚い夢でも構わない。
今、正守は自分と手を繋いでくれているのが嬉しくて、正守の着ていた羽織を涙と鼻水で濡らした。

何分そうしていたのだろうか。
正守は良守が背中に張り付いている間、良守を背負って移動していた。
眠りはしなかったものの、良守は久し振りに正守の背中で安心し夢の中に入りかけの状態であった。

「ほら、良守起きて。着いたよ」

正守に揺すられて、自分が今正守の背中にいることに気がつくと恥ずかしくなった。
すぐさま正守の背中から降りようとするのだが正守が降ろしてくれない。

「兄貴‥‥‥降りたいんですけど」

気まずそうに言うと正守は「このままでもホタルは見れるでしょ?」っと答えるだけ。
全く良守を降ろす気配はない。
仕方ないのでこのままの格好でいることにしたが、時音がいなくて本当に正解だと思った。

正守は良守を背負ったまま結界を作り下に降りると、もう誰も使われなくなったであろう古い橋の上に降りた。

「ここってさぁ。昔は人が住んでたみたいなんだけど高齢化が進んでるだろ?皆数年前に都会に引っ越したらしいんだ。だからこの辺りにいるのは俺とお前だけってことになる」

正守は良守を背負ったまま話し始める。
良守はその話を正守の背中から静かに聞くだけだった。

「今なら俺がお前を烏森の地連れ去って逃げても誰も分からない。そして俺とお前だけで暮らす事も出来る‥‥‥っと、思ったんだけど実際は上手くはいかない。」

正守は良守を自分の背中から降ろすと正面を向か真っ直ぐ見つめた。

「お前はそんなの嫌いだろ?」

少し哀しそうに笑うと正守は良守をギュッと抱き締め話を続けた。

「俺はお前に方印が出たとき多少ながら嫉妬したよ。方印が出たことによって自分の弟は烏森に捕られたんじゃないかって‥‥‥烏森に嫉妬した」

正守はこう言うと黙った。
抱き締めた力は変わらず良守を優しく包み、しかし力強かった。

「俺は‥‥‥俺はね、兄貴」

今まで正守の話を聞いていた良守が話しだす。

「俺は烏森を封印したい。もう誰も傷ついて欲しくないし逃げたくない。だけど、烏森が封印できたら‥‥‥俺は正守と一緒に暮らしたい。」

正守の顔が良守の顔を見つめる。
良守は暗闇の中だというのに真っ赤っというのが分かるぐらい赤い。

「俺は正守に傷ついて欲しくない。でも傍にいて欲しいんだ‥‥‥ワガママだけど」

しょぼんっと良守は言いたい事が上手く言えず項垂れている。
正守はククっと笑うと良守の唇に1つキスを落とした。

「そんなワガママなら俺はいつでも大歓迎だ。俺も良守には傷ついて欲しくないから、俺は良守を守る。良守は俺を守ってくれ。」
「んっ」

コクンっと頷く良守が可愛くて正守はもう1つキスを落とした。
そのときである、ホタルがふわふわ光りだした。

「わぁぁぁ!!綺麗だぁ‥‥‥」

人工的な光が一切こない山奥では、今このホタルの光だけがこの2人を照らす。
良守の髪にホタルが止まるとまるで簪の様になり正守は「あぁ。綺麗だ」っと呟く。

誰かがホタルの光は死んだ人の魂の化身だといった。
それが本当なのかは知らない。
正守は、もし自分が死んでしまったらホタルになって今夜良守の髪に止まったホタルの様にするだろうと思った。

「また来年、またここに来ような。」

正守はホタルに夢中の良守にそう言うと、もう後数時間後には朝になるであろう空を見つめ、この幸せな時間をかみ締めた。




















+++あとがき+++
ホタル見に行った時に考えた小説だが‥‥‥。
ホタルあんまし関係なかった。