切ないラブソングを歌っていた少女の横で少年が泣く。

叶わない恋と知っていたのに一瞬でも期待して舞い上がってしまう。
禁忌っと言われようとも手を伸ばしたい人の手は届かない。

自分の兄に切ない恋心を抱いてしまった。




サボテン



「アンタは馬鹿ね。本当に馬鹿」
「うん。ごめん」

少女は泣く少年の横でラブソングを続ける。

「あんな人より私を選んだら良かったのに。」

少女は少年の頭を撫でながら優しく、それでも哀しそうに笑顔を向ける。

「小さい頃は、時音を好きだと疑わなかったよ。兄貴が俺の心を全部奪うまでは‥‥‥」

「正守さん、明日結婚式なんでしょ?」
「‥‥‥うん」

少年は頷くとまた、その大きな瞳から涙を流す。
少女はその涙を綺麗だと思いました。

本当に綺麗だと思いました。

この少年の兄は明日結婚式です。
私はこの兄弟を小さい頃から見てきました。
見てるだけでした。

少年は兄に越えてはいけない快楽を教え込まれていました。
心など関係なく、体だけを求められる関係でした。

いくら少年が愛を唱えようとも、兄のほうは聞こうとはしませんでした。

酷い兄だと思います。
でも、兄のほうの気持ちも知っていたのは多分私だけ。

他人だから分かったのかもしれません。

あの嫉妬と欲望に駆られた視線に気づいたのはいつ頃からだったか‥‥‥。

「俺の良守に手を出さないでくれる?」

そう言われたのはいつだったか‥‥。

あの、どこか禁欲的なあの人が淫らに見えたのは一瞬の出来事だっただろうか?
少年に向ける優しい眼差しは嘘だったのだろうか?
切ない顔をしながら少年に話しかけるのは演技だったのだろうか?

少年を愛していると思うのは私だけだろうか?

少年の兄は明日結婚します。
そこには私も少年も呼ばれています。

前に紹介された彼女さんはとても優しそうで、どこか今泣いている少年に似ていました。

まだ少年に恋をしていると思うのは私だけでしょうか‥‥‥?

少年は泣いています。

こんなに愛し合っているのにも気づかずに泣いています。

少年の兄も泣いています。

泣いてなくても、心は泣いています。

報われない恋をした兄弟は泣いています。

私は切ないラブソングを歌うのを止めません。

どうか、どうか2人の兄弟が幸せになるように願うかのように歌います。
この歌の様に最後はハッピーエンドで終わる事を願います。

空に輝く流れ星よ。
全て流れて少年の願いを叶えて下さい。

神様がいるなら変えて下さい。
この残酷にまで歪んだ純粋な兄弟の運命を。

横で泣く少年の涙を止められる方法を誰か教えてください。









ー07.12.02ー