ごちそうさま

※良守が狂っています。
 少々グロイ部分があるので注意してください。
 上記の方が苦手な方は此処で読むのをおやめ下さい。
 平気な方はどうぞ下へ‥‥‥。








朝起きると右手の小指が無くなっていた。

「‥‥‥今度は小指。良守。お兄ちゃん、そのうち体の全部無くなっちゃうぞ?」

正守は自分の横でスヤスヤと眠る弟、良守に話しかける。

初めてはそりゃぁ驚いた。
だって、朝起きると有る筈の左手の親指がなくなっているからだ。

一様何度も色々な角度から自分の親指があった所を眺めてみた。
だが、やはりそこには何も無く親指を除いた四本の手があるだけだった。

さてさて、自分は一体どこで左の親指を無くしたのか?
っとこの状況がトラウマになりそうになりながらも考え込む。

昨日は大して強い妖と戦ったわけではない。
軽い切り傷を負っただけ。
刃鳥に攻撃されたがこんな中途半端な攻撃は彼女はしない。
むしろ死んでしまうような攻撃をする。
何度か殺さ‥‥‥、いやいや、彼女の事は信頼している。
まだ頭が完璧に起きていなかったらしい。

辺り転がっていないかどうか探すあたりで頭が混乱していることが分かる。

キョロキョロしていて、自分の親指を発見できなかった。
が、代わりに自分の布団の中で弟の良守が寝ているのが発見できた。

実家いるはずの良守が何故夜行の兄の部屋の布団の中にいるのか?

さてさて、自分は夢でも見ているのか?
っと現実逃避している中、うぅーんっと寝ていた良守が起きた。

「あッ、おはよう。兄貴」
「‥‥‥おはよう」

弟にしては爽やかな挨拶である。

いつもならば「この糞兄貴がッ!!俺の半径10メートルには寄って来るな!嫌な奴菌が移るだろうが!!」っと人を細菌扱いし、眉間に皺を寄せ暴言を吐いてくる。

こんな笑顔で普通の挨拶をしてくる良守を何年ぶりかに見た。

少し感動しながら、良守に何故此処にいるか聞いてみる。

「お前なんで此処にいる?どうやって此処に来た?」
「此処には自分で来た。兄貴に用事があったんだ」
「‥‥‥俺に用事?」

これまた珍しい。
良守が兄の自分に用事がある事なんて滅多に無い事だ。
ケーキを奢らされる時ぐらいにしか‥‥‥。

「兄貴その親指‥‥‥」

良守は正守の左手に無い親指を見つめる。

「そんなんだよ。朝起きたら親指が無くなってて‥‥‥良守知らない?」

知るわけもないはずの良守に聞いてみる。
この子は優しい。
心配して泣いてしまうだろうか?
そう思いながら良守を見つめる。
しかし、正守の想いとは反対に良守は正守の左手親指をウットリしながら眺めている。

「ごちそうさま」

そう良守は呟く。
一瞬何を言われたのか分からなかった。
何故弟は「ごちそうさま」っと言ったのか?

「何で”ごちそうさま”なんだ?」

そう言うと良守はキョトンっとしながら正守を見つめる。

「え?だって食べた後は”ごちそうさま”しなきゃ」

弟の言っている意味が分からない。
ご飯?良守は寝惚けているのか?だから優しく微笑むのか?
一体何を食べ‥‥‥

「良守。俺の左親指食べたのか?」

良守は両手を合わせて正守に言う。

「ごちそうさま」

正守の推理は大正解。
良守は正守の親指を食べてしまった。

「傷口はちゃんと消毒しておいたし、烏森に相談したら傷口を綺麗に塞ぐ力をくれたんだ。痛くなかっただろ?それも烏森に言ったら痛みをなす方法を教えてくれたんだ。」

まるで女子高生が好きな男の人に告白するような、そんな態度で頬を染めながらグロテスクな内容の告白をする。

「昔読んだ本にさぁ『貴方とずっと一緒に居たいから、貴方の髪の毛一本残さず食べてあげましょう。そしたら貴方は私の中でずっと一緒』って台詞があって、それが印象的にずっと残ってたんだ。」

良守は正守を布団に押し倒すと、静かに良守の話を聞く正守に話かける。

「で、最近思ったんだけど。兄貴がもし大怪我して死んじゃうとするでしょ?そうじゃなくても年取ったら死んじゃうだろ?兄貴が俺より年上だから、怪我とか病気で死んじゃう以外は俺より先に兄貴は死ぬ。」

哀しそうに良守は呟く。

「それはそうだろ。俺とお前じゃぁ7つも歳が離れているんだからな。」

正守は良守よりも早く死んでしまう。
それは正守が良守より年上だからだ。

それは変えられない運命。

「だから兄貴と少しでも俺の中で一緒にいられたら良いなぁ、って思ったの。だから食べた」

なんの背徳感も罪悪感もない瞳で見つめられ「駄目だった?」っと言われても正守の親指は返ってこない。
むしろ帰ってきたら恐い。

「兄貴とずっと一緒にいたい」

そう言われれば、小さい頃から良守に淡い恋心を抱いていた正守は嬉しくなる。
好きな人に食べられ、ずっと一緒にいられる。
良守の中で自分は行き続けている。
どんなに離れていようと傍にい続ける。

それがどんなに幸せか‥‥‥。

「いいよ、食べても」

そう答えた日から一体どれだけの日にちが経ったか。

朝起きたら良守が居る。
そうしたら自分の体の一部が無くなっている。

そんな習慣が慣れるなんて自分も大概狂っている。
今日は何処を食べられたのか?
そう思いながら朝を迎えるのが普通になってしまった。



良守、お前が俺を食べ殺してしまうよ?




心は既に完食済み。






ー07.12.31ー